傀儡の恋

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 しばらくの間、自分の記憶と今のギャップに悩まされた。
 と言っても、知識面ではない。主に運動面で、だ。体格が違うせいで間合いが微妙にずれてしまったのが原因だろう。
「成長というのは偉大だったのだな」
 それとも、徐々に大きくなっていったから気にならなかったのだろうか。
「どちらにしろ、これになれなければ、な」
 今の自分の体がこれなのだ。
 それならば、自由に使いこなせなければ意味はない。
「しかし、私になにをさせるつもりなのだろうね」
 今の自分には何もないと言っていい。そんな自分をどう使おうというのか。
「……目的はプラントではないだろうね」
 あちらではこの姿を知っているものは多い。自分本人だとは思わなくても関係者だと判断されるだろう。その結果、ギルバートやレイに連絡が行くはずだ。
 彼らが自分を否定するとは思えない。だが、動きにくくなるというのは否定できないはずだ。
 ならば、大西洋連合か。
「むしろ、オーブか」
 そちらの方が可能性が高いだろう。
「オーブと言えば……キラ達は、今どうしているのか」
 あの後、彼らは無事に戦場を後に出来たのか。
 出来たとしても、彼らを受け入れてくれる国はあったのだろうか。
 ウズミをはじめとするオーブの首長陣が生き残っていたならば何も心配はいらなかった。だが、セイランでは危ない。あそこはブルーコスモスの下僕だと言ってもいいのだ。
「調べられるといいのだが……難しいだろうな」
 今の自分では、とラウはため息をつく。
 実力がないわけではない。しかし、今の自分が使っていい機器は制限されている。使えたとしても監視されているのはわかりきっていた。
 そこでうかつな行動を取ればどうなるか。考えなくてもわからないはずがない。
「……連中の狙いは《キラ》か」
 ある可能性に気づいてラウはそう呟く。
 自分のキラに対する執着を知っていたならば十分にあり得ることだ。例え誰に何を言われなくても、自分は彼のことを調べただろう。
 しかし、だ。《一族》が監視を命じると言うことは、あの子を危険だと判断したのだろう。最悪、自分に彼の命を奪うように命じて来るかもしれない。
 果たして、その指示に従えるか。
 無理だろう、とすぐに判断をする。
 己の寿命がどれだけ残っているのかはわからない。だが、それだからこそ、キラと共に行きたいと願う気持ちがあるのだ。
 結局、新たな生を与えられても自分の執着は消えないらしい。
 それとも、それこそが連中の望むものなのか。
「……その可能性が一番高いね」
 そうでなければ、自分のような厄介な存在をよみがえらせる理由がない。年齢を操作することも、だ。
 同時にブレアも同じ理由であの年齢として生まれたのだろうか。
 どちらにしろそれについて問いかけるわけにはいかないだろう。
「さて……私はどうするべきだろうね」
 このまま《一族》の言うなりになるか。
 それとも、処分覚悟で逃げ出すべきか。
 逃げ出したとしても、どこに行けばいいのだろうか。
 考えれば考えるほどわからなくなっていく。
「せめて偽造でもいいからIDがあればね」
 もっと選択肢が広がっただろう。
 だが、仮定の話をあれこれ言っても意味ない。自分に出来ることをするしかないだろう。
 自分だけではなくキラにとっても有利な選択を取ろうとするのは難しいのはわかりきっている。それでも、そうするしかないのだ。
 それだけが、今の自分に残された唯一のものだと言っていい。
「私は私だ。例え、首に鎖をつけられていようとも、な」
 そして、いずれその鎖を断ち切って見せよう。そう心の中で呟いていた。

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最遊釈厄伝